【ルークエンディング#1】エンドゲーム学習はチェス上達の近道!! まずは一番頻度の高いルークエンディングから。

 エンドゲームというと皆さんどんな印象をお持ちでしょうか。ミドルゲームと比べると駒が少なく華に欠けるとか、何をすればいいのかよく分からないのでできれば指したくないと思っている方も結構いらっしゃるのではないかと思います。実際私も、エンドゲームの勉強を本格的に始めるまではこのように思っていました。そのために、少し有利な中盤で、優勢なエンドゲームに持ち込んでゆっくり指すべきところを、エンドゲームに自信がないために焦って勝負を決めに行って自滅してしまったなんてこともあります。
 エンドゲームはなおざりにされがちな分野ですが、次のようなメリットがあると思います。

【エンドゲームを学ぶメリット】
・優勢な局面を築いたときに、相手を攻め潰すだけではなく優勢なエンドゲームで勝ち切るという選択肢ができるので無理をせず堅実に指せるようになる。
・エンドゲームは駒数が少なくなるので優勢なときは相手の反撃を封じやすくなる。
・エンドゲームでの引き分けの形を知っていれば、たとえ劣勢に立たされていても逆算の発想で、粘る戦略を立てやすくなる。

 特に序盤の定跡と違って試合の結果に直結する分野であるため非常に重要です。最初は結果にも繋がりにくくつまらなく思えるかもしれませんが、駒が多いうちにはあまり現れないような面白いアイデアもあったりして実は非常に魅力的だと思います。

 一口にエンドゲームと言っても、残された駒の組み合わせによって、その性質は大きく異なってきます。ここでは、その中で最もよく現れ、そして最も難しいとされるルークエンディングについて扱っていきたいと思います。
 まずは次の局面図1を考えてみましょう。
 

図1 白番

 白は2ポーンアップしている上に、a7に強力なパスポーンがあり、一見すると簡単に勝てそうです。しかし、a8のルークが動くとa7のポーンが取られてしまい、キングサイドに3対2の形が残ると、黒キングがポーンに対して十分近くにいるために引き分けになってしまうので、白のルークは動けません。黒キングがg7かh7にいる限り黒は白ルークを封じ込めることができます。後で詳しく述べますが、白が勝つためにはまず、fファイルにパスポーンを作らなくてはなりません。
 結果から言ってしまうと、この局面は何と引き分けなのです。では実際にその手筋を見てみましょう。

1.f3(図2)

図2 黒番
1.f3まで

1… Ra1+
 1…Ra3だと白によりチャンスを与えてしまいますが、2.g4 hxg4 3.f4(図3)以下最善を尽くせば黒は引き分けを取れます。

図3 黒番
3.f4まで

a)3…g3?は時期尚早です。4.Kg2 Kh7 5.Kh3 Kg7 6.h5 gxh5 7.f5 h4 8.f6+(図4)で白勝勢です。詳しい理由は後で述べます。

図3 黒番
3.f4まで

b)3…Kh7! 4.h5 gxh5 5.f5 h4
 5…Ra1+でも黒は引き分けにできます。6.Kg2 Ra2+ 7.Kg3 Ra3+ 8.Kh4 Kg7 9.f6+ Kxf6! 10.Rf8+ Kg6!で黒に…Rh3#の狙いがあるため、白はパペチュアルチェックに持ち込むしかありません。

6.f6 Ra1+ 7.Kf2 g3+ 8.Kg2 Ra2+ 9.Kh3 g2 10.Kh2 h3 11.f7 Ra1 12.Kxh3 g1=Q 13.Rh8+ Kxh8 14.f8=Q+ Qg8 15.Qf6+ Qg7 16.Qd8+ Kh7 17.a8=Q Rxa8 18.Qxa8(図5)

図5 黒番
18.Qxa8まで

 これは引き分けの形です。

2.Kg2 Ra2+ 3.Kh3 Ra3 4.f4(図6)
   

図6 黒番
4.f4まで

4…Ra2!?
4…Kh7としてgポーンをピンにし続ける方がより単純でした。以下5.Kg2 Ra2+6.Kf3 Ra3+ 7.Ke4 Kg7で、白が勝つには8.g4として無理矢理fファイルにパスポーンを作りにいくしかありませんが、白キングが黒ルークによってカットオフされ、3段目より下に戻れなくなっているので8…hxg4(図7)とされると、このgポーンが止まらなくなってしまいます。

図7 白番
8…hxg4まで

5.g4 Ra3+ 6.Kg2(図8)

図8 黒番
6.Kg2まで

6… hxg4
 6…Ra2+ 7.Kf3 Ra3+ 8.Ke2 Ra2+ 9.Kd1 Ra1+とチェックをかけ続けてもOKです。白が 10.Kc2?としてしまうと10…hxg4 11.h5 g3で逆に白が劣勢になってしまいます。

7.h5 gxh5 8.f5 h4 9.f6+7.h5 gxh5 8.f5 h4 9.f6+(図9)

図9 黒番
9.f6まで

 10…Rxa7に対しては11.Rh7+で黒のルークを取れるので、白のプランは成功したように見えますが…

9…Kf7 10.Rh810…h3+ 11.Kh2 Ra2+ 12.Kg3 h2! 13.Rxh2 Ra3+! 14.Kxg4 Kxf6(図10)

図10 白番
14…Kxf6まで

 白のパスポーンは残りましたが、黒キングの方が白キングより先にこのポーンに追いつけるので引き分けです。

 このようにルークで遠くから相手のキングをいじめるというのは、最も基本的な防御のアイデアです。一般的にルークは広く使うのが基本ですが、その知識だけでは複雑な局面を考えるのには不十分だと思います。実際今のように駒数も少なく一見すると単純な局面でも、実に色々なアイデアが隠されているものです。
 複雑な局面で正しいプランを立てるためにはより駒数の少ない基本的なポジションをしっかり知る必要があります。実は図1の局面を評価し戦略を立てるうえでベースとなるポジションがあるのですが、それについては次の記事でご紹介したいと思います。これを知っていると、局面を評価して作戦を立てるのが非常に楽になります。

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