FIDE Candidates 2024(世界チャンピオン挑戦者決定トーナメント)

 もうすぐ2024年の世界チャンピオン挑戦者決定トーナメント(Candidates Tournament2024)がカナダのトロントで開催されます。開会式が2024年4月3日で、最初の試合が翌日4月4日に行われます。

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 この記事では現行の世界選手権の概要と、今回のトーナメント参加プレイヤーやスケジュールなどについてまとめてみたいと思います。
 なお、世界選手サイクルに関しては過去にすったもんだもありそれなりに複雑な歴史もあるのですが、そちらにつきましては別記事で書かせていただきたいと思います。

チェス世界選手権とは

 チェスの世界チャンピオンを決めるイベントです。
「前回の世界選手権の優勝者」である現世界チャンピオンと後述する「Candidates Tournament2024の優勝者」が1vs1で争います。
 2023年4月に行われた世界チェス選手権では、ディン・リレン(中国)がイアン・ネポムニャシー(ロシア)に勝ち世界チャンピオンとなりました。
 世界チェス選手権は近年では2014年からは2年のサイクルで行われていますが、一部イレギュラーがあります。

<開催年>
2014、2016、2018、2021、2023、2024
(※コロナパンデミックにより2020年は中止され、2021年に延期されました。)

 基本的には持ち時間の長いゲーム14局でチャンピオンを決定しますが、それで優劣がつかなければより持ち時間の短いゲームでチャンピオンを決める方式です。詳細はまた別記事で紹介したいと思いますが、今トーナメントはこの世界チャンピオンへの挑戦者を決めるためのものというわけです。

Candidates Tournament 2024への参加条件

 世界チャンピオン挑戦者決定トーナメントは参加できる基準が年によってまちまちだったりするので、ここでは今回のCandidates Tournament 2024への参加基準をご紹介します。

・2023年世界選手権の準優勝者1名
・2023年チェスワールドカップの上位3名 
・FIDE グランドスイストーナメント2023の上位2名
・2023 FIDEサーキット(チェスのトップトーナメントで構成されるランキングシステム)のTOP1名
・2024年1月でレーティングが最も高い者1名

 以上の合計8名が挑戦者決定トーナメントの参加者となります。
 主要なトーナメントの上位者か、レーティングが最上位の者が参加できる形です。

トーナメント概要

 前置きが長くなりましたが、2024年の世界チャンピオン挑戦者決定トーナメントの概要をまとめたいと思います。当トーナメントは、4月3日から23日までカナダのトロントで開催される予定です。このイベントは北アメリカで初めてラウンドロビン形式で開催されるという歴史的なものになっています。さらに、候補者選手権と女子候補者選手権が同じ期間、同じ場所で一緒に開催されるのも史上初とのことです。このトーナメントの優勝者は世界チャンピオンに挑戦する権利を得ます
 そして、まだ具体的な日程は決まっていませんが、今年の終わりには一般セクションの優勝者はディン・リレン(Ding Liren)と、女子セクションの優勝者はジュ・ウェンジュン(Ju Wenjun)と対戦します。
 それだけでなく一般セクション賞金総額500,000ユーロ(約8,250万円相当)と女子セクション賞金総額250,000ユーロ(約4,125万円相当)をかけての戦いともなります。

出場プレイヤー

 各セクションのそれぞれ8人のプレーヤーが、世界チャンピオン挑戦者になるチャンスを得るために険しい予選プロセスを経てきました。

一般セクション

一般セクションの参加プレイヤー

画像出典:https://en.chessbase.com/portals/all/2024/03/candidates-preview/candidates-open.jpg

イアン・ネポムニャシー(Ian Nepomniachtchi)
チェス国籍:FIDE、FIDEレーティング:2758
前回の世界選手権で準優勝

プラグナナンダ・ラメーシュバブ(Praggnanandhaa Rameshbabu)
チェス国籍:インド、FIDEレーティング:2747
2023年のワールドカップ準優勝

ファビアーノ・カルアーナ(Fabiano Caruana)
チェス国籍:アメリカ合衆国、FIDEレーティング2804
2023年のワールドカップ3位

ニジャト・アバソフ(Nijat Abasov)
チェス国籍:アゼルバイジャン、FIDEレーティング2632
2023年のワールドカップで4位でしたが、マグヌス・カールセンが参加権を辞退したため繰り上げで出場になりました。

ヴィディット・グジュラティ(Vidit Gujrathi)
チェス国籍:インド、FIDEレーティング2747
2023年のグランドスイス優勝

ヒカル・ナカムラ(Hikaru Nakamura)
チェス国籍:アメリカ合衆国、FIDEレーティング2789
2023年のグランドスイス準優勝

アリレーザ・フィルージャ(Alireza Firouzja)
チェス国籍:フランス、FIDEレーティング2760
2024年1月1日の時点で最高のレーティング

グケシュ・ドンマラジュ(Gukesh Dommaraju)
チェス国籍:インド、FIDEレーティング:2747
2023年のFIDEサーキット優勝

 注目すべきは何人か若手が初めてこの挑戦者決定トーナメントまで進んできたことです。幾度となく目撃されてきた世代交代がまた起きそうな予感もしますね。
 イアン・ネポムニャシーが3大会連続の挑戦者決定トーナメント優勝を目指す中、18歳のプラグナナンダーと17歳のグケシュ、そして後半20代のヴィディットとアバソフら若手にとって、これは初めての挑戦者決定トーナメントになります。20歳のフィルージャは、かつて世界ランキング2位になった経験を持っています。
 また経験豊富なプレーヤーであるカルアナ(世界ランキング2位)とナカムラ(世界ランキング3位)は、確実に主要な有力選手の二人です。彼ら二人がトーナメントに参加するのに大西洋を横断する必要がないのは初めてのことで、ホームの優位があるといえるかもしれません。

女子セクション

女子セクションの参加プレイヤー

画像出典:https://en.chessbase.com/portals/all/2024/03/candidates-preview/candidates-women.jpg

レイ・ティンジー(Lei Tingjie)
チェス国籍:中国、FIDEレーティング:2550
前回の世界選手権で準優勝

カテリーナ・ラグノ(Kateryna Lagno)
チェス国籍:FIDE、FIDEレーティング:2542
2022-23年女子グランプリ優勝

アレクサンドラ・ゴリャチキナ(Aleksandra Goryachkina)
チェス国籍:FIDE、FIDEレーティング:2553
2022-23年女子グランプリ準優勝

ヌルギュル・サリモワ(Nurgyul Salimova)
チェス国籍:ブルガリア、FIDEレーティング:2426
2023年女子ワールドカップ準優勝

アンナ・ムジチュク(Anna Muzychuk)
チェス国籍:ウクライナ、FIDEレーティング:2520
2023年女子ワールドカップ3位

ヴァイシャリ・ラメーシュバブ(Vaishali Rameshbabu)
チェス国籍:インド、FIDEレーティング:2481
2023年女子グランドスイス優勝

タン・ジョンイ(Tan Zhongyi)
チェス国籍:中国、FIDEレーティング:2521
2023年女子グランドスイス準優勝

ハンピー・コネル(Humpy Koneru)
チェス国籍:インド、FIDEレーティング:2546
2024年1月1日時点で最高のレーティング。ゴリャチキナがWGPを通じて既に出場権を獲得していたため、レーティング枠が女子ワールドカップの優勝者の代わりに空きました。

 女子セクションは、2019年にFIDEが女子世界選手権サイクルを改革して以来の3回目の女子チャンピオン挑戦者決定戦です。チェス史上女性で4番目に高いレーティングを持ち、大会のレーティングトップであるアレクサンドラ・ゴリャチキナは、2020年の世界選手権の挑戦者でした。
 出場者の中で、彼女に最も近いライバルは、昨年の世界選手権マッチに敗れたレイ・ティンジーです。この二人は現在、女子世界ランキング3位と4位で、レーティング僅差でコネル、ラグノと続いています。
 22歳のヴァイシャリ・ラメーシュバブは、プラグナナンダ・ラメーシュバブの姉であり、注目を集めています。彼ら二人にとって、今回が挑戦者決定トーナメントデビューであり、姉弟での同時参加は史上初めてのことだそうです。

トーナメント日程

トーナメント日程

4月3日 開会式
4月4日~7日 第1ラウンド~第4ラウンド
4月8日 休息日
4月9日~11日 第5ラウンド~第7ラウンド
4月12日 休息日
4月13日~15日 第8ラウンド~第10ラウンド
4月16日 休息日
4月17日~18日 第11ラウンド~第12ラウンド
4月19日 休息日
4月20日~21日 第13ラウンド~第14ラウンド
4月22日 タイブレーク

 両イベントともダブル・ラウンドロビン形式で、各プレーヤーが白番と黒番でそれぞれのライバルと2回対戦します。トーナメントは3週間にわたって14ラウンドが行われ、4日間の休息日があります。

 ちなみにタイムコントロール(持ち時間)は

 【一般セクション】
 40手120分+30分で、それとは別に41手目から1手ごとに30秒の追加

 【女子セクション】
 40手90分+30分で、それとは別に41手目から1手ごとに30秒の追加

 となっています。

 開会式は4月3日の夕方に行われ、両トーナメントは4月4日の現地時間14:30(日本時間4月5日午前3:30)に、最初の対局がスタートします。イベントの規定に基づき、ペアリングは開始の1か月前に決まりました。最初のラウンドでは、以下の対戦が行われます。

【一般セクション】
ファビアーノ・カルアナ vs. ヒカル・ナカムラ
ニジャト・アバソフ vs. イアン・ネポムニャーシチ
アリレザ・フィルージャ vs. プラグナナンダ・ラメーシュバブ
グケシュ・ドンマラジュ vs. ヴィディット・グジュラティ

【女子セクション】
アレクサンドラ・ゴリャチキナ vs. カテリーナ・ラグノ
アンナ・ムジチュク vs. ヌルギュル・サリモワ
レイ・ティンジー vs. タン・ジョンイ
ヴァイシャリ・ラメーシュバブ vs. ハンピー・コネル

試合についてもこちらのサイトで取り上げていきたいと思っていますので乞うご期待ください。