女子セクションの初戦は4試合のうち、1試合で決着がつきその試合の勝者のタン・ジョンイ(中国)がトーナメントを一歩リードする形となりました。引き分けの3試合もファイティングドローで個人的には初戦から見応えがあったと思います。
Goryachkina, Aleksandra(2553) ½-½ Lagno, Kateryna(2542)
Muzychuk, Anna(2520) ½-½ Salimova, Nurgyul(2432)
Lei, Tingjie(2550) 0-1 Tan, Zhongyi(2521)
Vaishali, Rameshbabu(2475) ½-½ Koneru, Humpy(2546)
【第1ラウンド終了後のクロステーブル】
No. | プレイヤー名 | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 得点 | 順位 |
1 | Goryachkina, Aleksandra | * * | . . | . . | . . | . . | . . | . . | ½ . | 0.5 | 2 – 7 |
2 | Muzychuk, Anna | . . | * * | . . | . . | . . | . . | ½ . | . . | 0.5 | 2 – 7 |
3 | Lei, Tingjie | . . | . . | * * | . . | . . | 0 . | . . | . . | 0 | 8 |
4 | Vaishali R | . . | . . | . . | * * | ½ . | . . | . . | . . | 0.5 | 2 – 7 |
5 | Humpy, Koneru | . . | . . | . . | . ½ | * * | . . | . . | . . | 0.5 | 2 – 7 |
6 | Tan Zhongyi | . . | . . | . 1 | . . | . . | * * | . . | . . | 1 | 1 |
7 | Salimova, Nurgyul | . . | . ½ | . . | . . | . . | . . | * * | . . | 0.5 | 2 – 7 |
8 | Lagno, Kateryna | . ½ | . . | . . | . . | . . | . . | . . | * * | 0.5 | 2 – 7 |
第2ラウンドのペアリングは次の通りです。
Lagno, Kateryna(2542) – Koneru, Humpy(2546)
Tan, Zhongyi(2521) – Vaishali, Rameshbabu(2475)
Salimova, Nurgyul(2432) – Lei, Tingjie(2550)
Goryachkina, Aleksandra(2553) – Muzychuk, Anna(2520)
一般セクションの記事と同じように4試合をそれぞれ簡単にご紹介したいと思います。
□ Goryachkina, Aleksandra(2553)
■ Lagno, Kateryna(2542)
FIDE Womens Candidates 2024(1), Tronto
1.e4 c5 2.Nf3 Nc6 3.Bb5 d6 4.O-O Bd7 5.Re1 Nf6 6.c3 a6 7.Bf1 e5(図1)
8.Na3
ここでは8.h3とポーンを進めて…Bg4とされて間接的にd4のマスに圧力をかけられるのを防いでおいて、早めにd4eポーンを進められるように用意しておいた方が主導権を維持しやすかったようです。
8…Be7
これでほぼ形勢互角です。
9.Nc2 O-O 10.h3 Re8 11.d3 h6 12.Ne3 Bf8 13.Nh2 Be6 14.Qf3 Ne7 15.Nhg4 Nxg4 16.hxg4(図2)
16…g6
16…Qd7でh3-c8ダイアゴナルのコントロールを強めておけば黒に主導権があったようです。
17.Nf5 Kh7 18.Ng3 Bg7(図3)
19.g5
19.Nf5の方が黒に難しい選択を迫れてよかったようです。例えば19…gxf5?!としてしまうと20.gxf5から21.f6でe7のナイトとg7のビショップがフォークにされてマイナーピースを取り返される上にキング周りが弱くなってしまうので、黒にとって着手の選択が難しいところです。
19…h5 20.Be2 Rf8 21.Bd1 Qd7 22.Bb3 Bxb3 23.axb3 Qe6 24.Qd1 Rad8 25.Be3 Nc6 26.Nf1 f5 27.gxf6 Qxf6 28.Qd2 Qe6 29.Bg5 Bf6 30.Bxf6 Rxf6 31.Ne3 Rdf8 32.Re2(図4)
32…R6f7
32…Qxb3?!と不用意にポーンを取ってしまうと33.Nd5でルークを狙いつつ、クイーンの退路を塞がれてしまいエクスチェンジダウン確定となってしまいます。実際33…R6f7などとルークを逃がすと34.Ra3 Qb5 35.c4で黒クイーンの行き場がありません。なので、33…a5とするくらいしかありませんが、34.Ra3!(1手挟んで黒クイーンのポジションを悪くするのがポイントです。)34…Qb5 35.Nxf6+ Rxf6で黒はエクスチェンジダウンで、十分な代償は得られていないと言えるでしょう。
33.Nd5 Qg4 34.Ne3 Qe6 35.Nd5 Qg4 36.Ne3 Qe6(図5) ½-½
本譜のように同計三復による引き分けで妥協せずに36…Qh4で主導権を維持しながら試合を続行してもよかったかもしれません。
□ Muzychuk, Anna(2520)
■ Salimova, Nurgyul(2432)
FIDE Womens Candidates 2024(1), Tronto
1.e4 e5 2.Nf3 Nf6 3.d4 Nxe4 4.Bd3 d5 5.Nxe5 Nd7 6.Nxd7 Bxd7 7.O-O Bd6 8.Nc3 Nxc3 9.bxc3 O-O(図6)
黒は後手の不利を解消できています。
10.Qh5
単純ながら強力な10…Qh4を防いでいます。
10…f5 11.Rb1 b6 12.Re1 c6 13.Bg5 Qc7 14.c4 Be8 15.Qf3 dxc416.Bxc4+ Bf7 17.Bxf7+ Rxf7 18.h3 f4 19.Bh4 Bf8 20.Re6 Rc8 21.c4 Qd7 22.Qe4(図7)
22…f3! 23.Re1 fxg2 24.Bg3 Rd8 25.Rd1 Re7 26.Rxe7 Qxe7 27.Qxe7 Bxe7 28.Kxg2(図8)
黒に若干ポーンストラクチャー(ポーンの形)の利はあるものの互角のエンドゲーム(終盤戦)です。
28…Kf7
代わりに28…Bf6!?とd4の白ポーンへ圧力をかけても面白かったと思います。
29.Kf3 Bd6 30.Ke4 Bxg3 31.fxg3 Re8+ 32.Kd3 Re6 33.d5 Rg6 34.dxc6 Rxc6 35.Kc3 Ke7 36.Kb4 Rc5 37.Re1+ Kd7 38.Rd1+ Ke7 39.Re1+ Kd7 40.Rd1+ Ke7(図9) ½-½
最後は互角のルークエンディングに落ち着いて引き分けとなりましたが、非常に面白い試合でした。
□ Lei, Tingjie(2550)
■ Tan, Zhongyi(2521)
FIDE Womens Candidates 2024(1), Tronto
1.d4 Nf6 2.c4 e6 3.Nc3 d5 4.cxd5 exd5 5.Bg5 Be7 6.e3 h6 7.Bh4 Bg4(図10)
クイーンズギャンビット・ディクラインドのエクスチェンジ・ヴァリエーションと呼ばれる戦型です。本譜でも白はクイーンサイドでマイノリティアタック(相手よりも少ないポーンで攻めて弱点を作っていく戦法)を仕掛け、黒はクイーンサイドから反撃を仕掛けるという古典的な展開になります。
8.Qc2 O-O 9.h3 Be6 10.Nf3 Ne4 11.Nxe4 Bxh4 12.Nc5 Bc8 13.Nxh4 Qxh4 14.Be2 c6 15.b4 Re8 16.O-O Qg5 17.Kh1 Nd7(図11)
18.b5
18.a4ともう一手攻めの準備に費やしてもよかったかもしれません。
18…Nxc5 19.Qxc5 Re6 20.bxc6 Rg6 21.Bf3 bxc6 22.Qa5 h5 23.Qc7 Qh4(図12)
24.Qf4?!
白は…Bxh3とビショップを切られるのを嫌ってクイーン交換を仕掛けましたが、ポーンの形を崩してしまう上に主導権を黒に渡してしまいます。
代わりにクイーンサイドを攻めるというプランに基づいた24.Rab1!が攻守で、見えにくいですが24…Bxh3!?に対しては25.Qh2!でピンを活かしてしっかり守り切れます。以下25…Rf6 26.Rb7 a5 27.a4 Re8 28.Ra7 Rf5 29.Qxh3 Qxh3+ 30.gxh3 Rxf3 31.Kg2 Rf6 32.Rb1で白やや優勢のルークエンディングになるでしょう。
24…Qxf4 25.exf4 Rf6 26.Rfe1 Kf8 27.Rac1 g6 28.Kh2 Rxf4 29.Rxc6 Rxd4(図13)
黒は1ポーンアップで、自陣に目立った弱点もなく、まだ勝ちまでは行きませんが明らかに優勢です。
30.Rd1 Rxd1 31.Bxd1 a5 32.Kg3 Be6 33.Kf4 Ke7 34.a3 Rb8!
ルークのアクティビティ(可動性)は非常に重要です。
35.Rc5 Rb2 36.Rxa5 Rxf2+ 37.Bf3 Kf6 38.Ra6 Rf1 39.h4(図14)
39…Rh1
ここでは39…Ke7!と一度6段目のピンを外しておいたほうがよかったようです。ただ40手目前でおそらく両者時間がかなり切迫していたのではないかと思います。以下、40.Kg5 Ra1で黒優勢です。
40.Kg3?
ここも時間切迫による部分が大きいのではないかと思いますが、この手が敗着になったと言えそうです。代わりに40.Bxd5 Rxh4 41.Ke3と黒のパスポーンをh4の白ポーンと交換して消してしまえば本譜よりも大分粘れたのではないかと思います。
40…Ke5 41.a4 Kd4!
黒キングが盤の中央を支配してdポーンが進むのをサポートしています。
42.Ra8 Ke3 43.Re8 g5 44.Rxe6+ fxe6 45.hxg5 h4+ 46.Kg4(図15)
白はgポーンに一縷の望みをかけますが・・・
46…h3!
gファイルも開いてしまっては勝負ありです。
47.g6 Kf2 48.Kf4 Ra1 49.g7 Rxa4+ 50.Kg5 Ra8 51.gxh3 Kxf3 52.h4 Rg8(図16) 0-1
白の最後の望みのdポーンを落ち着いて止めて黒勝勢なのでここで白は投了しました。白の小さなミスを上手く突いて確実に優位を拡大して勝ちにつなげた黒に指し回しが印象的でした。
□ Vaishali, Rameshbabu(2475)
■ Koneru, Humpy(2546)
FIDE Womens Candidates 2024(1), Tronto
1.e4 e5 2.Nf3 Nc6 3.Bc4 Bc5 4.c3 Nf6 5.d3 h6 6.b4 Be7 7.Nbd2 O-O 8.O-O d5(図17)
白に若干の主導権があります。
9.Bb3 a6 10.a3 Be6 11.Re1 b5 12.Bb2 dxe4 13.dxe4 Bxb3 14.Qxb3 a5 15.Nf1 Qc8 16.Ne3 Qe6 17.Nd5 Rfd8 18.Nxf6+ Qxf6 19.Rad1 Bd6 20.Rd5 Rdb8 21.Red1 Qe6(図18)
a2-g8ダイアゴナルに沿ったピンを活かした…Ne7が強力な狙いになっています。
22.Qc2 Ne7 23.R5d3 Nc8 24.Nd2 Nb6 25.Bc1 Be7 26.Nf1 Qc6(図19)
これで黒は後手の不利をほぼ解消できたと言えるでしょう。
27.Ne3 axb4
不用意に27…Qxe4?としてしまうと28.Rd8+とディスカバードアタックをくらって以下28…Rxd8 29.Rxd8+ Rxd8 30.Qxe4で駒損して敗勢になってしまいます。
28.cxb4 Qxc2 29.Nxc2 Rd8 30.Kf1} Rxd3 31.Rxd3 Rd8 32.Ke2 Rxd3 33.Kxd3(図20)
形勢互角のマイナーピースエンディングです。
33…Kf8 34.Be3 Nc4 35.Kc3 Ke8 36.f3 h5 37.Ba7 Nd6 38.Bc5 Nb7 39.Ba7 Nd6 40.Bc5 Nb7 41.Ba7 Nd6(図21) ½-½
お互い特に目立った弱点もなく、白キングもこれ以上黒陣へ侵入できないので引き分けに落ち着きました。